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『オデュッセイア』


全編IMAX撮影された映像の真価は映画館でしか味わえない
クリストファー・ノーラン監督が誘う映画的冒険へいざ出発!

© 2026 UNIVERSAL STUDIOS

長編映画監督作2作目『メメント』(’00年)で一躍脚光を浴びたクリストファー・ノーラン監督は、『ダークナイト』トリロジー(’05~’12年)、『インターステラー』(’14年)、『TENET テネット』(’20年)など、独創的かつ緻密なストーリー構成とダイナミックかつ斬新な映像世界で、観る者に驚きの映画体験をもたらし、作品ごとに着実に評価を高めてきた。

悪魔の兵器を生み出した原爆開発者の内面に迫った前作『オッペンハイマー』(’23年)は、世界的な物議を醸すほど難しいテーマでありながらも、米アカデミー賞作品賞を含む7部門受賞するなど批評的にも興行的にも大成功を収め、ノーラン監督の比類なき才能を改めて思い知らされた。

そして、3年ぶりの新作でも、さらに最高峰の映画をめざすかのような野心的なチャレンジに挑み、大きな話題を呼んでいる。

古代ギリシャの吟遊詩人ホメロスによる長編叙事詩『オデュッセイア』を、長編映画では初めてとなる全編IMAXのフィルムカメラで撮影した本作は、臨場感あふれる映像でギリシャ神話の世界へ没入させ、“壮大なスケール”という類型的な表現では収まらないほどの映画的冒険を経験できるだろう。


ギリシャの島国イタケの王オデュッセウス(マット・デイモン)がトロイア戦争に出征して20年が過ぎる。その間、王が不在の王宮では、王妃ペネロペ(アン・ハサウェイ)と結婚し、王位に就こうと企むアンティノオス(ロバート・パティンソン)ら求婚者たちが大勢集まり、毎夜、宴を繰り広げていた。

不逞な求婚者たちを見かねた一人息子のテレマコス(トム・ホランド)は、「自分が王になる」と決意し、父の行方の手がかりを掴むためにスパルタの王メネラオス(ジョン・バーンサル)の元へ旅立つ。

そんななか、オデュッセウスは不死の精霊カリュプソ(シャーリーズ・セロン)とともに孤島で穏やかに暮らしていた。「過去の記憶が無い」と話すオデュッセウスに対して、カリュプソは「自分が何者なのか、そして家臣たちがどうなったかを思い出すように」と伝える。

そうして、見事勝利を果たしたトロイア戦争から、故郷イタケへの帰還をめざすオデュッセウスの壮絶な旅路が明かされる。


トロイの木馬で有名なトロイア戦争の顛末、ギリシャ神話の神々や怪物、魔女らが行く手を阻む帰還の旅、イタケの王位を巡るオデュッセウスと邪悪なアンティノオスとの対決など、迫力満点のアクションシーンとともに描かれるエピソードはどれも見応えたっぷりだ。

脚本も手掛けたノーラン監督は、トロイア戦争の英雄オデュッセウスのヒロイックな冒険譚を描きファンタジーの原点と呼ばれる原作を、“戦うこと”の意味を問うシリアスなダークファンタジーに仕上げている。

イタケへ帰る長い航海の途中で、食料不足に苦しむオデュッセウス一行は島へ上陸し、一つ目の巨人キュクロプスや魔女キルケの住処に迷い込んでしまう。

キュクロプスの洞窟ではスリル満点の脱出劇が繰り広げられ、キルケの家では思わず目を背けてしまうほどグロテスクな描写がある。本能的に人をムシャムシャ食べてしまうキュクロプスはとても怖いが、兵士たちへの恐怖心が怒りへと変わるキルケの方がもっと恐ろしい。出演シーンはわずか10分程度ではあるが、キルケを演じるサマンサ・モートンの狂気的な演技は評価が高く、賞レースを賑わせるのではないだろうか。


戦場で人を殺した報いのように、次々に命を落としていく兵士たち。不死の精霊カリュプソに命を救われたものの、愛する家族の記憶を失ったオデュッセウスもまた、罰を受けているのだろう。彼が戻らないことで、妻は利己的な男たちに尊厳を脅かされ、息子は命を狙われるのだから。

やがてオデュッセウスが妻と息子を救うために、物乞いのふりをしてイタケへ帰還する終幕は、ノーラン監督らしい、しびれるような作術劇が展開する。

怒れる神々や、無念を残した戦争の犠牲者たち、内省を促した女神アテナなどと遭遇した苦難の旅を経て、戦争の英雄の裏にある“真実の姿”を知ったオデュッセウス。戦争を主導した罪の意識に苦悩しながらも、イタケを守るためにアンティノオスの暴挙を阻止しなければならない。知将として、静かに“その時”を待つオデュッセウスが何を考えているのか。クライマックスでは、不穏な雰囲気の中、緊張感あふれる駆け引きが繰り広げられる。

演技派のマット・デイモンが、ノーラン監督が創造した過酷なアクションシーンと深みのある人間ドラマの根幹となる難役・オデュッセウスを見事にこなしている。狡猾なアンティノオスを憎々しげに演じたロバート・パティンソン、気丈な王妃ペネロペを理性的に演じたアン・ハサウェイなど、主演級のキャストたちも力演を見せている。

ノーラン監督にとり、最高評価を受けた『オッペンハイマー』の次作として期待された『オデュッセイア』は、現代にも続く戦争への警鐘を鳴らした『オッペンハイマー』のテーマをより深化させ、魅力的なエンターテイメントでもあるギリシャ神話を使い、より分かりやすく訴えている。

オッペンハイマー同様の苦悩を抱くオデュッセウスを通して、実在の人物には成しえなかった、人が正しく生きる姿を示した本作は、『オッペンハイマー』をしのぐ快作と言えるだろう。

作品ごとにテーマや製作のハードルを上げていくノーラン監督の映画的冒険はどこへ向かうのだろうか。次の作品が早くも待ち遠しい。
(ライター:能登春子)

作品情報

2026年/アメリカ/172分/配給:ビターズ・エンド・ユニバーサル映画
公式サイト:https://odyssey-film.jp/


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