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『レンタル・ファミリー』


人と人との繋がりを静かに見つめ
優しい気持ちを呼び覚ます良作

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レンタル・ビデオならぬ、〈レンタル・ファミリー〉という、家族や友だちなど本来なら心で繋がっている人々を、お金を払ってレンタルするビジネスのことを知ったときは驚いたが、本作のHIKARI監督が調べたところによると、現在、日本には300社ほどレンタル家族産業があるという。
孤独を紛らわすため、体裁を保つためなどのほかにも、さまざまな事情を抱えた依頼主の求めに応じた人物の“ふり”をすることは、その事実を知らない誰かをある意味、騙すことにもなる。
“嘘も方便”というジレンマを抱かざるを得ない仕事〈レンタル・ファミリー〉に、日本で侘しく暮らすアメリカ人俳優が出合ったら? 人間関係の悩みが尽きない昨今、人にそっと寄り添うことの大切さを思い出させてくれる。


アメリカ人の俳優フィリップ(ブレンダン・フレイザー)は歯磨き粉のCMの役を得て、7年前に東京に移住するが、その後、俳優としてはパッとせず、日本での生活に居心地の良さを感じつつも本来の自分を見失いかけていた。
ある日、エージェントから“黒いスーツを着用する”仕事が入る。フィリップが向かったのは見知らぬ男性の葬儀。自分の役目は弔問客を“演じる”ことと気づいたフィリップは衝撃を受けながらも俳優の仕事をし、その帰り道、葬儀に居合わせたレンタル・ファミリー社の経営者・多田(平岳大)にスカウトされる。
“ヤラセ”のような仕事に躊躇しつつも、レンタル・ファミリー社で働き始めたフィリップは、佳恵(森田望智)の依頼で彼女の結婚式で“新郎”を演じたのを皮切りに、多彩なアメリカ人役で依頼の尽きない“売れっ子”になる。


『ホエール』(’22年)で米アカデミー賞主演男優賞に輝いたブレンダン・フレイザーを主演に迎えたのは大正解。困り顔がよく似合うフレイザーが、戸惑いながらも誠実にレンタル・ファミリーの仕事に向き合うフィリップを好演し、切なくも温かい人間ドラマを紡いでいく。

フィリップは、シングルマザーの瞳(篠﨑しの)の依頼で、1人娘・美亜(ゴーマン シャノン眞陽)の小学校入学試験の面接のために、美亜の“アメリカ人の父親”役を演じる一方で、世間から忘れられつつある大物俳優・長谷川喜久雄(江本明)の威厳を取り戻すために、“外国人記者”役で喜久雄にインタビューを行う。
親に捨てられたと思い込む美亜の心を開き、記憶の薄れゆく喜久雄の願いをアシストするフィリップ。たとえ赤の他人であっても心優しいフィリップの登場で、失われたときを埋めていく美亜と喜久雄のエピソードが静かに胸を打つ。本作が女優デビューとなるゴーマン シャノン眞陽の透明感あふれる姿は本作の見どころの一つでもある。
人と心で繋がることができれば人生は豊かになるかもしれないが、そううまくいく人ばかりではない。それでも、他人であっても人を優しく見つめる心があればいつかは報われるのではないだろうか。優しい気持ちが持ちづらい殺伐とした現代に、癒しの風を吹かせる良作である。
(ライター:能登春子)

作品情報

2025年/アメリカ/
公式サイト
https://www.searchlightpictures.jp/movies/rentalfamily


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