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『両親が決めたこと』


“デュオ安楽死”を選択した家族の葛藤
命の重みと儚さを伝えるミュージカルドラマ

© 2024 LASTOR MEDIA,
KINO PRODUZIONI, ALINA FILM

2006年、スイス連邦裁判所は「高齢夫婦のどちらかが終末期に安楽死するとき、そのパートナーは健康であっても共に安楽死できる」と認めた。この“デュオ安楽死”とも呼ばれる命の終え方は、近年、欧州で急増しているという(2022年には29組が実施)。

最愛の妻を失って生きる苦痛に耐えられず、終末期の妻とともに安楽死を望む健康な夫。しかし、愛のために死を選ぶことが本当にできるのだろうか? デュオ安楽死を選択する両親(ふたり)と3人の子どもたちの決断の過程をとおし、死との向き合い方について考えさせる。


バルセロナで暮らす80歳の舞台女優・クラウディア(アンへラ・モリーナ)は末期がんに侵されている。がんが脳に転移したことで錯乱や半身まひなどに苦しむクラウディアを、夫のフラビオ(アルフレード・カストロ)や、最近同居を始めた末娘のヴィオレッタ(モニカ・アルミラル・バテット)が献身的に支えていた。
しかし、クラウディアは自我の喪失が近づくなかで安楽死を決意する。そして、クラウディアを深く愛するフラビオもまた、自らの意志でクラウディアとともに旅立つことを決めるが、子どもたちは父の考えにショックを受け、猛反対する。


両親が同時に安楽死を選ぶという哀しい物語なのだが、重苦しさを振り払うようなユニークな演出が施されている。
死が忍び寄るクラウディアが抱くさまざまな心情が前衛的なミュージカルで表現される。ちょっぴり不気味な扮装のダンサーたちよる不思議な振り付けのミュージカルは突飛な印象もあるが、独創的なパフォーマンスは辛い死をめぐる家族の葛藤が中心になる物語の中で、つかの間、肩の力を抜くことができる。
映画を観ている間中、家族そして自分の死に際について考えてしまう。死をも恐れぬ夫婦の強い愛は純粋にうらやましくなるが、脚本も手がけたスペイン人監督カルロス・マルセットの見解は現実的だ。本作のスペイン語タイトルは『Polvo serán(廃棄処分)』、英語タイトルは『THEY WILL BE DUST(彼らは埃(ちり)になるだろう』。その真意はエンドロールで流れる音楽の歌詞も踏まえるとなかなか興味深い。
死を前に複雑な内面を覗かせるクラウディアを演じたのは、芸歴50年を誇るスペイン・バルセロナの国民的女優アンへㇻ・モリーナ、穏やかで愛情豊なフラビオを演じたアルフレード・カストロも魅力的だ。
(ライター:能登春子)

作品情報

2024年/スペイン・イタリア・スイス合作/106分/配給:百道浜ピクチャーズ
公式サイト:https://www.m-pictures.net/futarigakimeta/


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