
96歳のエレノアおばあちゃんの“グレイト”な愛に溢れた
スカーレット・ヨハンソンの愛すべき監督デビュー作

ハリウッドのスター俳優スカーレット・ヨハンソンが長編映画監督デビューを飾った注目作。
御年96歳の大ベテラン女優、ジューン・スキップを主演に迎え、喪失の悲しみを抱えた人にそっと寄り添う、心優しい物語を紡ぎ上げた。
エレノア(ジューン・スキップ)と親友のベッシー(リタ・ゾーハー)は共に夫を亡くしてから、フロリダで仲良く共同生活をしていた。ところが、ベッシーが急死してしまう。
喪心のエレノアは、疎遠になっていた娘のリサ(ジェシカ・ヘクト)と大学生の孫マックスが暮らす故郷のニューヨークへ戻ってくる。しかし、リサもマックスもそれぞれの生活があり、エレノアに構うことができない。リサは1人で部屋にこもるエレノアに、JCC(ユダヤ・コミュニティ・センター)へ行き、同年代の友人を作るよう勧める。
渋々とJCCへ向かったエレノアは、思わずホロコースト生存者がその体験を語り合う自助グループの会に迷い込んでしまう。そこで、自分の体験を話すよう促されたエレノアは、かつてベッシーから聞いたホロコーストの体験を自分のことのように話し、参加者たちの共感を呼ぶ。中でも、ジャーナリスト志望の大学生ニナ(エリン・ケリーマン)はエレノアの話に深く胸を打たれ、エレノアに「もっと話が聞かせてほしい」とインタビューを申し込む。
93歳で映画初主演した『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』(’24年)で、元気で勇敢なおばちゃんをコミカルに演じたジューン・スキップは、2作目の主演作となる本作でも、明朗で率直で懐の深いエレノアを魅力的に演じている。
エレノアにとっては「今日だけの嘘」のはずだった。ところが、一人身の寂しさに耐えかねたエレノアはニナの申し出を受けてしまい、嘘をつき続けることに。そうして、誰とも分かち合えない喪失の悲しみの中にいたニナは、彼女の痛みに気づいたエレノアにだけ心を開けるようになり、2人は大きな年齢差を超え、友情を築いていく。
エレノアとニナの心をつなぐのは、喪失の経験だけでなく、ともにユダヤ教の信者であること。多文化共生の大都会ニューヨークに息づく、家族的なユダヤ・カルチャーを絡めて、一度は失われた人間関係が再構築される過程がじっくりと丁寧に描かれる。
「ホロコーストの生存者」という重い嘘は、やがて大騒動を巻き起こすが、嘘という形で現れたエレノアの大切な人への深い想いは人々の心に沁み入り、喪失の悲しみに向き合う力を与える。人は誰もが、大切な人を亡くすという経験を避けることはできない。だからこそ、共に会い、話し、笑い合える時間を大切にしたいと思えるだろう。
ホロコーストの犠牲者が自身のルーツにいるというヨハンソンが脚本にほれ込み、初監督に挑戦することを決めたという。ヨハンソンの抜擢を受けた脚本のトリー・ケイメンは、本作で長編映画の脚本家デビュー作を果たした。バラエティ誌の「2024年注⽬すべき脚本家10⼈」のひとりに選ばれており、今後の活躍が期待されている。
良質なストーリーを落ち着いた演出で、愛すべき佳品に仕上げたヨハンソンは映画監督としての才能を感じさせる。
ダニー・ボイル監督作『28年後…』シリーズ(’25年、26年)で注目を集めるエリン・ケリーマンが、ピュアなニナを情感豊かに演じている。

6月12日より全国順次公開
作品情報
2025年/アメリカ/ビスタ/カラー/98分/配給:東映ビデオ
公式サイト:https://eleanor2026.com/
