
元レスラーの俳優ドウェイン・ジョンソンが面目躍如の活躍
総合格闘技に人生を賭けたマーク・ケアーに身も心もなり切る

1990年代後半~2000年代前半、日本で熱狂的な人気を博した総合格闘技イベント「PRIDE(プライド)」で、“霊長類ヒト科最強”の異名で恐れられたプロ格闘家、マーク・ケアーの光と影を描いたスポーツ伝記映画。
プロレスラー、ザ・ロックとして圧倒的な強さと人気を誇った後、俳優に転身し、見事な成功を収めたドウェイン・ジョンソンがマーク・ケアーを演じ、再びリングの上に戻ってきたことが大きな注目を集めた。
1997年、総合格闘技デビューしたマーク・ケアー(ドウェイン・ジョンソン)は、無敗のままアメリカの格闘技団体UFCのチャンピオンへと昇りつめる。
インタビューでは「自分は負けたことがない。勝つのは快感。自分を神だと思う」と自信満々に話すケアーは強気に見えるけれど、リングを下りれば、素顔はとても優しく、繊細な男だ。
1999年、ケアーは国内外で連勝を重ねる一方、怪我による慢性的な痛みや敗北への恐怖にむしばまれ、効き目の強い鎮痛剤に依存するようになっていた。アリゾナ州フェニックスの豪邸で同棲する自由奔放な恋人ドーン(エミリー・ブラント)とは、些細なことで喧嘩が絶えない。
総合格闘家としても私生活でも大きなストレスを抱えるなか、ケアーは「PRIDE.7」へ出場するため、日本へ向かう。
ケアーが活躍していた1997~2000年までの出来事に焦点を当てた映画では、日本で開催された「PRIDE.7」(’99年)と「PRIDE GRANDPRIX 2000」(’00年)での試合とその舞台裏が大きく取り上げられており、ケアーが実際に闘う姿を覚えている日本の総合格闘技ファンは懐かしさとともに、ケアーが“屈強な男”でいるために秘めていた人間性を知り、驚くだろう。
「PRIDE.7」では、ケアー自ら交渉する報酬は安く抑えられ、運営側から軽く見られていたようだ。報酬への不満やドーンとの不和、薬物依存などによる心身の不調を抱えながら出場した試合で、ケアーは対戦相手イゴール・ボブチャンチン(オレクサンドル・ウシク)から悪質な反則行為を受け、惨敗してしまう。
この試合は、ケアーが主催である榊原信行(大沢たかお)に反則行為を訴えたため、無効試合になったものの、初の敗戦となったケアーは大きな精神的打撃を受けてしまう。敗戦後、呆然とした面持ちでリングを引き上げたケアーを静かに追うカメラは、控室で1人肩を落とし、涙を流すケアーを捉える。深い敗北感が全身をまとうケアーの寂しげなこと――。
映画で描かれるのはケアーの華やかな活躍ではなく、ケアーが悩み、苦しむ姿。この後、鎮痛剤の過剰摂取によるリハビリ施設への入所、喧嘩別れを繰り返すドーンとの歪んだ関係など、さらに厳しい現実は続く。ケアーの現役時代を知らなくても、困難な人生を克服しようとする普遍的な人間ドラマとして引き込まれる。
薬物依存を克服したケアーは、人生を変えるために「PRIDE GRANDPRIX 2000」に出場する。開幕戦で、布袋寅泰が『君が代』を歌うほか、ケアーの対戦相手のエッセン井上役を現役の総合格闘家・石井慧が演じ、運営スタッフとして光浦靖子が登場するなど、日本を舞台にした「PRIDE GRANDPRIX 2000」シーンは多彩な演出で見応えたっぷりだ。
試合シーンでは、スリリングな格闘技アクションとともに、テンポのいいジャズセッションのような音楽が抜群にカッコいい。哀愁を帯び、緊迫感を高める音楽はケアーの不安な胸の内を表しているかのようだ。神妙な面持ちで試合を待つケアーの姿に、思わず息を詰めて見入ってしまう。
果たしてケアーは復活を果たせるのか。UFCの盟友マーク・コールマン(ライアン・ベイダー)など、屈強な男たちが参戦する闘いにおいて勝者は1人だけ。厳しい勝負の世界に人生を賭ける総合格闘家たちの、栄光と挫折を鮮明に対比させたラストシーンは静かな感動を呼ぶ。
ケアーの生き方に感銘を受けたジョンソン自ら企画・製作を務めた意欲作。顔に特殊メイクを施し、肉体を改造し、心の底からケアーになり切ったジョンソンは、米ゴールデングローブ賞の主演男優賞(ドラマ部門)で初ノミネートを果たした。
監督・脚本は、『グッド・タイム』(’17年)や『アンカット・ダイアモンド』(’19年)など、“サフディ兄弟”名義による兄のジョシュ・サフディとの共同監督作で、評価を高めてきたベニー・サフディ。単独での長編監督デビュー作となる本作で、なんと第82回ヴェネツィア国際映画祭の監督賞にあたる銀獅子賞受賞の快挙を果たした。
コールマンを演じるのは現役UFC選手のライアン・ベイダー、反則技を仕掛けた小憎らしいボブチャンチン役には現役プロボクサーのオレクサンドル・ウシク、当時ケアーのトレーナーを務めたバス・ルッデンが本人役で出演するなど、本物のファイターたちの協力を得て、徹底的にリアリティーを追求した物語は、ケアーの生身の姿に肉薄するだけでなく、熱い男たちが人生を賭ける総合格闘技のしびれるようなおもしろさにも改めて気づかせてくれる。
(ライター:能登春子)

5月15日より全国ロードショー
作品情報
2025年/アメリカ/123分/配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/a24/smashingmachine/index.html
