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『オールド・オーク』


苦境の中でも他者を思いやる心の尊さを知る
ケン・ローチ監督が最後に届ける希望のメッセージ

© Sixteen Oak Limited, Why Not Productions, Goodfellas, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 C inéma and The British Film Institute 2023

厳しい現実の中で生きる、市井の人々を見つめてきたイギリスの名匠ケン・ローチ監督の最新作は、『わたしは、ダニエル・ブレイク』(’16年)、『家族を想うとき』(’19年)に続く「イギリス北東部3部作」の最終章。

90歳を迎えたローチ監督の「最後の作品」になるかもしれない、という淋しい声も聞かれるが、苦境の中にもささやかな希望を感じさせる素晴らしい作品を完成させた。 


舞台は2016年。かつて炭鉱で栄えたイギリス北東部の町が炭鉱の閉山により、活気を失ってから30年あまり。仕事を失った地元民が町を去る一方で、安価になった住宅に群がる投資家や新しい住人たちにより、町の秩序は乱れ、経済格差を見せつけられる町民たちは不満を募らせている。

町で唯一のパブとなった「オールド・オーク」の店主、TJ・バランタイン(デイブ・ターナー)も経済的に苦しいものの、馴染みの町民たちの憩いの場として営業を続けている。そんな人々が困窮にあえぐ町で、戦禍を逃れたシリア難民の受け入れが始まる。


住宅が安いという理由で、貧困地域がシリア難民の受け入れ先になったというイギリス北東部の実情をベースに、ケン・ローチ監督と長年タッグを組んできた脚本家ポール・ラヴァティがすんなりと心に響く明快なストーリーを練り上げた。

物語の軸になるのは、シリア難民をめぐる町民たちの姿。命からがら祖国を離れた彼らに心を寄せて助ける者がいれば、「国は不況に苦しむ自国民を助けないのに外国人は救うのか」とヘイト感情を抱く者もいる。オールド・オークの常連でバランタインの旧知の仲間たちも反対派に属し、シリア難民へ冷たい目を向ける。

大切な炭鉱を奪われたという辛い過去が、彼らの心の余裕を失わせているのは容易に想像できる。居場所を奪われた痛みを知る弱者が、戦争で国を追われて傷ついた弱者をさらに傷つける。閉塞的な社会が生み出した負の悪循環は観ていて心が痛くなる。

物静かなバランタインも、時代に翻弄され、人生の痛みを抱えている。人生を諦観するような彼が、聡明なシリア人女性ヤラ(エブラ・マリ)から戦禍のシリアの悲惨な現状を知る。苦境の中でも前向きに生きようとするヤラに触発されたバランタインは、オールド・オークでシリア難民や困窮に瀕した町民たちのための食堂を開こうとするが、反対派の仲間たちとの板挟みになってしまう。

バランタインやヤラ、オールド・オークの常連やその他の町民やシリア難民など、すべてのキャラクターたちがリアリティにあふれ、共感を誘う。彼らの境遇や経験、それぞれの立場からの行動、遠いイギリスの田舎町やシリアの現実などを興味深く見ているうちにアッという間に終幕になる。

徹底してリアリズムを追求するローチ監督。現実の厳しさだけを示した痛烈な結末を用意することも少なくないが、本作はコロナ禍、戦争など、世界中で人々を分断する哀しい出来事が続く時代だからこそ、人々に切に求められる大切なことを伝える結末に胸が熱くなった。

バランタインを演じるのは、「イギリス北東部3部作」すべてに出演しているデイヴ・ターナー。彼は元・労働組合役員を務めた労働者で、ヤラ役のエブラ・マリはイスラエル占領化にあるシリアのマジュダル・シャムス村出身だという。

本作では、シリア人以外のすべての出演者は全員地元コミュニティの出身者で、シリア人にはこの地域に定住した人々が選ばれたというのも特筆したい点だ。現実を知る者が放つエネルギーが、観る者を映画の世界へ引き込む力になっている。
(ライター:能登春子)

作品情報

2023年/イギリス、フランス、ベルギー/英語・アラビア語/113分/配給:ファインフィルムズ
公式サイト:https://oldoak-movie.com/


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