
離婚の危機を救う(?)スタンダップコメディ
笑って身につまされるハートフルなヒューマンドラマ

“離婚”は誰にとっても経験したくないことだろう。けれど、結婚生活を続けていると、さまざまな理由から、その2文字が避けられないこともある。だから、離婚をテーマにした物語に人々が求めるのは、壊れた夫婦関係の修復方法ではないだろうか。
離婚の危機に直面した中年夫婦を主人公にした本作は、離婚を回避する方法としてはとてもハードルが高いが、夫婦が離婚に思い至る理由の一つであり、結婚生活にとって最も大切なことが分かるだろう。
ニューヨーク郊外に暮らすアレックス(ウィル・アーネット)とテス(ローラ・ダーン)は結婚して20年、2人の子どもに恵まれ、順調に夫婦生活を続けてきたが、いつの間にか夫婦関係は冷え、2人きりだと話すこともない。離婚を考えた2人は別居することに決め、アレックスはマンハッタンにアパートを借り、一人暮らしを始める。
夫婦関係が壊れたことを隠したまま、テスと2人で参加した友人夫婦たちとのホームパーティの帰り道、1人で街をさ迷うアレックスは、陽気な人々で賑わうコメディクラブにふらりと立ち寄る。そして、成り行きでオープンマイクのステージに立つことになってしまう。
オープンマイクで、突然、パフォーマンスをするはめになったアレックスは、離婚寸前の自分の状況をネタにしたスタンダップコメディを披露して大うけ。コメディクラブの常連たちもアレックスを温かく受け入れる。
オープンマイクで、アレックスより深刻な恋愛ネタをユーモラスに話す女性をはじめ、コメディクラブの常連たちも“何か”を抱えた人が多そう。“人生いろいろ”としみじみ感じてしまうコメディクラブの空間は居心地がいい。
アレックスもまた、寂しい心を癒すのは笑いの力とばかりに、悩みや失敗談など自分の状況をスタンダップコメディとして披露し、人々と笑い合うことに生きがいを見出していく。
アレックスが離婚をバネに、スタンダップコメディアンとして成功する、という話ではない。目的は、時が経つほどにすれ違っていく夫婦関係の謎を解き明かすことだ。
中盤では、テスが偶然アレックスのスタンダップコメディのステージを見てしまったことから始まる、夫婦の新しい関係が描かれる。テスがアレックスに求めていたのは、本音で真っすぐに話すことであり、スタンダップコメディを通して、彼の素直な告白を聞いたのだ。
『アリー/スター誕生』(’18年)、『マエストロ:その音楽と愛と』(’23年)に続く、俳優ブラッドリー・クーパーの監督3作目。
ストーリーの原案は、ウィル・アーネットが聞いた実話で、アーネットやクーパー、脚本家のマーク・チャペルが共同脚本を手がけ、リアルと遊び心のバランスが絶妙に保たれた上質なストーリーを練り上げた。
『これって生きてる?』という風変わりなタイトル(原題は『Is this thing on?』)は、ステージでマイクテストを行う際に使われる英語の常套句という。
自分の言葉がパートナーに届いているか? たまにはきちんと尋ねてみるといいだろう。スタンダップコメディアンにならなくてもできる簡単なことだ。
(ライター:能登春子)

4月17日より全国ロードショー
作品情報
2025年/アメリカ/120分/配給:ディズニー
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/isthisthingon
